こんにちは。

LifeLabo登山部、登山ガイドの小山和彦です。

毎年恒例、秋の家族大縦走。2022年秋は嫁の「雲ノ平山荘に泊まりたい」というご要望もあり、源流域縦走を計画しました。

1日目:折立・薬師岳登山口 – 太郎兵衛平 – 太郎平小屋(泊) 
太郎坂で5時間の足慣らし。絶景の鞍部でのんびりと原流域の山並みを眺めながら作戦会議。

2日目:太郎平小屋 – 薬師沢小屋 – 雲ノ平 – 雲ノ平山荘(泊) 
薬師沢からの急登のご褒美は嫁にとってのメインディッシュ、雲ノ平小屋堪能。翌日のメインイベントに備える。

3日目:雲ノ平 – 水晶岳 – ワリモ岳 – 鷲羽岳 – 三俣山荘(泊) 
がっつりとお山に挑む日。岩場の稜線歩行、雨、風、霧、天候によりエスケープの見極めが大事。

4日目:三俣山荘 – 三俣蓮華岳 – 双六岳 – 鏡平山荘(泊)
贅沢な休養日。稜線からの槍穂高連峰を眺めながら我が家の定宿、鏡平であし休め。

5日目:鏡平山荘 – 小池新道 – 新穂高温泉
数日ぶりの温泉にダッシュ!身体を清めてから飛騨牛を堪能し高速バスで帰京。

雲ノ平と百名山2座を含む5座縦走、人気小屋で繋ぐ5日間のやまたび。
旅行会社のツアーだったらいったいどれくらい?

嫁の期待感は半端なく、わたしもそれを実現させたい思いでそれぞれの準備を進めていました。

が、今期の宿命なのか日程が近づくにつれ天気図が思わしくない。

夜行バス乗車の前日には、大きな影響をもたらした台風14号が列島を東進。
登山開始日には台風の西側の等圧線も抜けているが、登山道上の倒木、特に薬師沢、支沢の増水、渡渉点の崩落があれば途中敗退の可能性もある。

周辺の山小屋に状況を確認させていただいたところ、通行に支障はない模様。
本来ならココロ晴れて出発!というところですが、どうやらそうもいかないようです。

<気圧の谷と熱帯低気圧、寒冷前線からのエスケーププラン>

行程中盤の予想天気図が思わしくない。
一番崩れて欲しくない23日。
活動山域に気圧の谷がかかり、北上してくる熱帯低気圧から湿った空気が放り込まれそう。
日本海の前線も気になる。
そして、この熱帯低気圧が台風15号に化ける可能性も捨てきれない。

仮に降雨であれば、水晶岳山頂付近の岩場の登り降りは見送り。
ワリモの痩せた尾根や鷲羽のザレた下降もなぁ、、、風が加わればかなり心細い思いをさせる。
嫁の脆弱なレイングローブも懸念のひとつ。

稜線を諦め祖父岳を巻いて、少々リスクを伴うが黒部川源流を渡渉して三俣山荘に早着するパターンが濃厚。

24日は北の前線の南下が見込まれる。
前線が通過してくれれば回復も見込めるが、北上する熱帯低気圧の勢力次第では停滞する可能性もある。
停滞したら稜線に上がらず三俣蓮華、双六岳を巻いて鏡平山荘に降る。

見事に黒部源流域0座縦走5日間 小屋巡りのたび、、、完成です。

熱帯低気圧が台風15号に成長した場合は活動山域、というより帰京のバスへの影響が気になります。

とはいえ、数日先の予測ですから好転もありえます。いずれにしても太郎平小屋での判断となります。

<21日 雨の太郎坂と絶景の太郎兵衛平>

朝7時の折立登山口。風は西から入ってきているようです。
高積雲が「ぼちぼちゆるーくふらせるよー」と言っているようです。
1時間ほど登り、標高1600mあたりから降り始めました。

さらに2時間ほど登り標高2100mあたりで雲を抜けた。


稜線に上がるとベンチの濡れ具合から稜線では降っていなかったようです。
富山湾からの湿り気は稜線を超えなかったのですね。

太郎兵衛平
水晶岳、ワリモ岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳、黒部五郎岳

西側に面した薬師岳は見えたり、隠れたりしていましたが南東側の水晶、鷲羽、三俣蓮華、双六の稜線は日没まではっきり。
谷の最深部、薬師沢までくっきりみえます。

反面、西側の富山湾方面には見事な雲海が日没まで広がっていました。
富山のアメダスを見ると降雨後、午後から北北東の風となています。この雲海は風向きより、朝のうちのお湿りが原因でしょうか。

太郎兵衛平のdocomo受信状況は結構不安定で天気図の画像がなかなか受信できない。
(ちなみにこの日、小屋ではSoftBankのWi-Fi工事をやっていました。工事のお兄さんたちと一緒に登ってきました)

美しい日没と夕ご飯に大満足の嫁は翌日の撤退宣言など微塵にも予感していない様子。

<22日 撤退宣言と富山で暴飲暴食>
運命の22日。朝4時、天気図拾いに表に出るとすでにどんより。
高気圧が東進して背面に入り南寄りの風に変わりそう。熱帯低気圧由来の湿った風が送り込まれて時間の経過とともに雨が放り出し、雲ノ平も真っ白な世界に包まれそう。

そして、23日の予測図は熱帯低気圧が台風に成長し、気圧の谷とのダブルパンチ。
ここで進んでしまうと後戻りは難しくなり、前に進むしかなくなります。
まさに瀬戸際。

朝ごはん前に「撤退」が決定されました、ってかしましたが、せっかくの朝ごはん、美味しくいただきましょう。

朝食後、談話室にてミーティング。

選択肢としてエスケーププランをしっかりとお伝えしたうえで、撤退を選択した旨を伝えます。

晴天の霹靂とはこんな顔、って感じでしばらく言葉を失っていました。

小屋に滞在していた皆様が続々お出掛けになるなか、タクシーを予約し、雲ノ平にキャンセルを入れ撤退準備を粛々と進めます。

6時半、下山開始。
本来進むべき南側は真っ白け。が、今回は南側から崩れているので下山方向の北西側は雲も少なく富山湾も見えています。
たまに雲の切れ目から陽が差し込むたびに嫁のほっぺも膨らんでいきます。下山スピードも乗りません。
メンタルって影響しますねー。

たっぷり余裕を持って11時にタクシー予約しましたが、4時間かけて10時半下山。
その頃には北西側も雲に包まれ雨が降り出しました。
お迎えがくる頃には本降りとなり、ヤフーのトップニュースに台風15号とデカデカと出たことでやっとご納得いただけました。

タクシーのご好意で「満天の湯」に立ち寄り、本降りの富山駅周辺で暴飲暴食!来年の再訪を誓います。

<結果はどうだったのか>

ライブカメラ、アメダスデータなどにより現地状況を検証してみます。

22日

実況天気図と朝7時の立山雄山のライブカメラ映像。

高気圧が東進して活動山域は高気圧の西側に(赤線部分)位置し、南から湿った風が入ります。
ライブカメラには終日にわたってこのような映像ログが並んでいます。
富山のアメダス、槍ヶ岳の観測データともにお昼前から1時間あたり数ミリ〜10ミリ程度の降雨があったようです。槍の稜線上も地上で僕らが体感していた天候と同様のようです。
雲ノ平も予想通り雨で真っ白けであったのかなぁと推察します。

23日

実況天気図と12時の槍ヶ岳ライブカメラ
予定では7時に雲ノ平を出発し、水晶、ワリモ、鷲羽岳の稜線をやっつけて14時ごろ小屋入りの予定でした。

富山のアメダス、槍ヶ岳の観測データとも朝6時くらいから降り始め槍ヶ岳では1時間あたり数ミリ〜10ミリ程度の降雨、気温は7度前後、風速は5メートル前後。
体感温度を含め、やはり稜線活動は見送り。
行っていたとしても祖父岳を巻いてリスク覚悟で渡渉点に下降し小屋を目指す感じですね。
小屋に余裕があれば停滞させていただいて、翌日マキで鏡平を目指す選択肢もあります。

各データによるとこの日は北西からの風が気圧に谷に作用したようです。予想通り、台風由来の降雨ではなさそうです。

24日

朝のうちは降雨が残ったようですが、前線は予想より早く南下して8時くらいからは回復傾向になり、午前中から晴れ間が出たようです。

ちなみにこの期間、知人のガイドが雲ノ平に逗留していました。彼から得た後日談では

22日は降ったり止んだり、弱風。23日は大降り、強風

とのことでした。

ということで、後学のためにも自分の予測したこと、考えたことを整理し、現地状況を検証してみました。

撤退決定に対してある程度の評価はできると考えています。

が、パーティーメンバーや山行形態が変われば、その時なりの判断、決行判断もあり得るわけで、撤退が正義ではなく状況に即した思考判断が必要ですよね。

 

LifeLabo登山部では22年秋、尾瀬ヶ原、紅葉に絡めた講習山行を企画しています。

10月15日(土)山小屋泊 蛇紋岩と紅葉の至仏山2日間

10月20日(木)日帰り登山 紅葉と雲と岩 谷川岳天神尾根

10月24日(月)初めてのロープワーク クローゼットに眠っているカラビナ 、ハーネス、スリングを活用しよう

11月13日(日)日帰り登山 落葉する針葉樹の森 日向山

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